寅さんシリーズの第9作目として製作された映画「男はつらいよ 柴又慕情(1972年8月5日公開)」。
第8作目まで不定期に製作されていた男はつらいよシリーズでしたが、この作品から盆と正月の年2回に分けての製作が定着し始めます。
1960年代を代表する人気映画女優・吉永小百合をマドンナに迎えて製作されたシリーズ第9作目「男はつらいよ 柴又慕情」の感想と見どころをまとめてみました。
目次
「男はつらいよ 柴又慕情」の作品データ
- 公開日:昭和47年8月5日(1972年8月5日)
- 上映時間:107分
- 出演者(キャスト):渥美清/倍賞千恵子/松村達雄/三崎千恵子/前田吟/太宰久雄/津坂匡章/佐藤蛾次郎/笠智衆/佐山俊二/吉田義夫/宮口精二/吉永小百合/沖田康浩/高橋基子/泉洋子/中田昇/青空一夜/桂伸治/谷よしの
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詳細は、以下の記事をごらんください。
「男はつらいよ 柴又慕情」でのマドンナ:吉永小百合
第9作目「男はつらいよ 柴又慕情」でマドンナ・高見歌子役を演じたのが、吉永小百合です。
歌子は、5年前から結婚したい男性がいるにも関わらず、父親に反対されて結婚に踏み切れない女性役。そして、自分が結婚してしまうことで、たった一人残される父親を放っておけない悩みも抱えています。
しかし、博に「あなたが(父親を一人に)できないと思い込んでるだけなんじゃないですか?」と言われ、思い切って名古屋にいる彼と結婚することを決意します。
寅さんのことを優しくて楽しい人と思ってはいるものの、恋愛感情はありません。
ただ、寅さんに出会えたことで、自分は結婚に踏み切ることができたと感謝しています。
第13作目「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」では、2年後の歌子として再びマドンナとして登場します。
「男はつらいよ 柴又慕情」での脇役たち
寅さんとケンカする不動産屋の主人:佐山俊二
佐山俊二は、寅さんシリーズでは様々な役で登場しますが、この作品では寅さんの部屋を斡旋する不動産屋の主人役で登場します。
敷金礼金の6,000円を請求しようとし、寅さんとコントチックなケンカを繰り広げます。
娘の結婚を許せない不器用な父親役として宮口精二が登場
宮口精二は、吉永小百合が演じるマドンナ歌子の父親役として登場します。
宮口精二というと、「七人の侍」で寡黙な剣士・久蔵のイメージが強いですが、この作品では娘の結婚を許すことができない小説家の父親を好演しています。
残念ながら、この作品で渥美清とのカラミは一切ありませんでした。
ちなみに、歌子がマドンナとして登場する13作目「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」でも、歌子の父親役として再度出演しています。
おいちゃん役が森川信から松村達雄にバトンタッチ
1作目から8作目までのおいちゃん役を演じた森川信が1972年3月26日に死去したことで、9作目から松村達雄が新しくおいちゃん役を演じるようになります。
2代目おいちゃんと言えば、寅さんに足の裏ぐりぐり攻撃をよくされていましたが、この作品でもさっそく寅さんにやられてます。
ちなみに、松村達雄のおいちゃんは、14作目の下條正巳にバトンタッチされるまで登場することになります。
松村達雄は、その後に製作される男はつらいよシリーズで医者、仲人、教師、住職、教授など、様々な役柄で再び登場します。
「男はつらいよ 柴又慕情」での夢のシーン
今回の夢は、借金取りの親分から貧しい漁師夫妻(博とさくら)を寅次郎が救い出すというシーンです。
寅次郎は、20年ぶりに妹のさくらの前に登場したという設定で、兄であることをさくらに悟られながらも、それを否定するという流れになっています。
この夢のシーンを観ていて少し違和感を感じたのは、任侠時代劇風に始まったと思いきや、途中で時代錯誤かと思われる電柱が画面の中に映り込んでいたところです。
夢のシーンのため、あえてそうしたのかどうかはわかりませんが、少し違和感を感じざるをえませんでした。
寅さんが口にくわえているものは、この映画が公開された1972年に人気を博していたテレビドラマ「木枯し紋次郎」が使っていた長楊枝です。
「木枯し紋次郎」とは、フジテレビ系列で放送された中村敦夫主演のドラマです。
この夢のシーンに登場する車寅次郎は、木枯し紋次郎のパロディーです。
寅さんが歌子らと初めて出会った時も、口に長楊枝を加えて木枯し紋次郎気取りで、嘘の生い立ちを語ります。
ちなみに、この作品に登場する満男は、なぜか中村はやとではなく沖田康浩が演じています。
「男はつらいよ 柴又慕情」で起きた主な騒動と見どころ
「貸間あり」札騒動
さくらたちが家を建てるための資金作りのために、寅さんが寝泊まりしていた2階を貸すことに。
何の事情も知らず、とらやの店先にぶら下げてある「貸間あり」札を見た寅さんは、「自分の住むところはない」と勘違いし、自ら不動産屋を回って、自分が住める部屋を探し始めます。
ところが、運よく見つけた部屋が、何と「貸間あり」札をぶら下げたとらやの2階だったという展開に。
不動産屋から敷金・礼金を請求されたものの、事情を理解せずに発した一言で寅さんはとらやを出て行く流れにになります。
寅さんが出て行こうとするとらやの壁には、「言葉は心」という北原白秋の詩が貼り付けてあります。
詩に書いてある通り、人が発した言葉にはすべて心を持っているということでしょうか。
この作品では、「言葉には言って良いことと悪いことがあり、注意をして使わないと簡単に人を傷つけてしまうよ」という意味が込められています。
一つの言葉で喧嘩して
一つの言葉で仲直り
一つの言葉で頭がさがり
一つの言葉で笑いあい
一つの言葉で泣かされる
「中国のある僧侶の言葉より」
ちなみに、この詩は寅さん記念館で飾られていますが、映画の中でもこっそりと使われているので探してみてください。
二人きりを意識すると、途端にしゃべれなくなる寅さん
寅さんは二人きりになると、途端にしゃべれなくなってしまいます。
特に、相手に対しての恋愛感情が強すぎると、逆に近付くことさえも避けるようになります。
この9作目では、歌子と二人きりという空間に耐えきれず、会話がおぼつかなくなってしまいます。
こんな状態になる寅さんは、他の作品でも垣間見れます。
例えば、28作目のマドンナ・光枝(音無美紀子)の時には、あまりにも意識し過ぎて光枝がいる座敷に上がることができなくなったり、29作目のマドンナ・かがり(いしだあゆみ)の時には、二人きりで会うことができず、甥の満男を連れて行ったりしてしまいます。
寅さんにとって女性とは、摘んではいけない花のような存在であり、遠くからずっと眺めていたい存在なのでしょう。
「男はつらいよ 柴又慕情」での寅とさくらのエピソード
フラれた寅さんの気持ちを察しつつ、本当の気持ちを確認しようとする妹のさくらでしたが、寅さんは本当の気持ちを言うことはありません。
しかし、「ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ」などといって誤魔化してみたものの、本音がポロンと漏れます。
「・・・またフラれたか・・・」
はっきりと聞こえたさくらでしたが、寅さんには聞こえなかったフリをします。
しかし、寅さんの本当の気持ちを理解できたさくらは、少しほっとしたようにも見えます。
「男はつらいよ 柴又慕情」で登場する寅さんのアリア(一人語り)
自分の下宿先を見つけるため、不動産屋を訪れている時に語る寅さんのアリアです。
これから寝泊りしようとする下宿先の娘が、なぜかさくらになっているのに笑えます。
しかし、これだけ長いセリフをまるでアドリブで語っているかのようにみえてしまう渥美清は、やはり天才としか言いようがありません。
「ひとっ風呂浴びてらっしゃいな、帰ってくるまでに晩ご飯作っておくから。」
タオル、洗面器、シャボン、
「どうせあんた細かいお金ないんだろ?」
40円ぽんと貰って、
「じゃ行ってくるか」
「行ってらっしゃい」
やがて俺は風呂へ行く。
帰ってくる、晩飯になる。
俺はおかずなんてなんだっていいな、どうせ家賃は大したことないんだからさ。
そうね、おつまみに刺身一皿、煮しめにお吸い物、卵焼きなんかちょっと付いてもいいし。
おひたしか何かもあったらいいな、お銚子を3本ぐらいすっと飲む。
昼間の疲れでついウトウトとなる。
おかみがすっとそれを見て、
「さくら、枕を持っていっておやり。ついでにお腰も揉んでやったらいいんじゃないかい」
さくらっていうのはその下宿の娘よ。
どうしたんだい、その面は?
「男はつらいよ 柴又慕情」で登場する寅さんの啖呵口上
第9作目で登場するのは、「めのう」の啖呵売です。
場所は、石川県金沢市兼六園です。
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「男はつらいよ 柴又慕情」で登場する歌や音楽
チンガラホケキョーの唄
歌子たちが旅行について語り合っている時、隣の部屋に泊まっている寅さんと登が歌っていたのが「チンガラホケキョーの唄」という歌です。
よく耳を澄まして聞かないと聞き取れないかもしれません。
この曲は、渥美清の持ち歌です。
ちなみに、2作、8作でも登場します。
いつでも夢を
寅さんと歌子の年が離れ過ぎているという話に、タコ社長から「年なんか問題ないんじゃない?」と言われ、有頂天になった寅さんが口ずさんだ歌が「いつでも夢を」です。
その後、歌子が博の家に晩飯に招待されて出て行った時にも寅さんはこの歌を口ずさみます。
この歌は、1962年9月20日に発売された橋幸夫と吉永小百合のデュエット曲です。
おそらく、吉永小百合がマドンナということで意図的に使用された歌と思われます。
「男はつらいよ 柴又慕情」のロケ地
第9作目「男はつらいよ 柴又慕情」の舞台となったのが、石川県金沢市、福井県。
日本三名園の一つとして知られる兼六園がロケ地として選ばれました。
長町武家屋敷跡(石川県金沢市)
歌子たちが散策していたのが、加賀藩の中・下級武士が暮らした長町武家屋敷跡。長町二の橋から金沢駅方面に向かった石畳の道です。
兼六園(石川県金沢市)
日本三名園の一つ兼六園。歌子たちが食事をしているのが兼六園の中にある「内橋亭」というお店。お店から見えているのが、霞ヶ池です。
そして、寅さんが「めのう」の売をしていた場所が、蓮池門通りへ下る小径です。
元京善駅周辺(福井県永平寺町)
寅さんが、御前様の持ちネタ「バター」を披露した駅が、京福電鉄永平寺線の京善駅です。
京福電鉄永平寺線は2002年廃線となり、京善駅の駅舎、線路も撤去されています。当時線路があった場所は現在農道に変えられています。
東尋坊(福井県坂井市)
寅さんと歌子らが楽しそうにはしゃいでいたのが、東尋坊の絶景ポイント「三段岩」。
奇岩、怪岩が1kmに渡って続く断崖絶壁の地です。
越前松島(福井県坂井市)
寅さんが歌子たちを驚かせて遊んでいたのが、越前松島にある観音洞。
奇岩と松の木のコントラストが印象的な場所で、宮城県にある松島に似た雰囲気があるため越前松島と名付けられたと言われています。
てらぐち(福井県永平寺町)
永平寺の門から出てくる歌子らを撮影しているのが、手打ちそば「てらぐち」の店内です。
福井県産そば粉を使った手打ちそばとして人気のお店です。
永平寺口駅(福井県永平寺町)
寅さんと歌子たちが別れた駅が、えちぜん鉄道勝山永平寺線の永平寺口駅です。